ダンジョン&マスター 第一章 擬脳楽園 初校版

 おおお、ああ、おおお。
 おあ、おお、ああ。

 ふう。

 ようやく終わった。
 俺はこの脳のメンテってのが苦手だ。嫌い、とはちょっと違う。ただ間違いなく好きじゃない。
 体の内側からひたすらくすぐられる。そんな感覚が延々と続く。といってもそんなに長い時間じゃない。俺がそう思うだけで。
 実際には、保護ケースに入った俺の擬脳をナノバブルで洗浄し、保護液を入れ換える。それだけと言えば、それだけ。
 ただその間、文字通り、頭の中を筆で撫で回されるような感じで、そのもどかしさたるや……。
 ただ俺の五感は肉体、この場合はアバターだが、それから開放されて、真っ白い大海をぷかぷかと漂っている。声も出ない、匂いもない、何も聞こえない。とにかく色が全てハイライトに飛んでしまっていて、目を開けているのか閉じているのかもわからない。
 それで頭の中を撫で回されるのだ。人によっては性行為を行っているような最高の快感だ、なんて言うが、それなら俺は一生御免だ。まあ、今のご時世、物質的肉体を持ってジオ・ポーンに行くしか、それを出来る可能性はないが。
 ただ、頭はスッキリした。いや、スッキリというのはちょっと違う気がするが、クリアになった気がするという意味では、ケンタの言う通りではある。擬脳に老廃物が溜まったり保護液がヘタったりすると、機能が低下するらしいからな。

 メンテを終えた俺は、局の受け付けまで戻ってきた。戻るなんてファスト・トラベルで一瞬だが、常に奇妙な違和感がつきまとう。
 今、戻ってきた俺は、その前の俺と同じだろうか。
 結局のところ、今の俺はサイ・ワールド上に再現されたバーチャルな存在でしかない。擬脳の記憶とか成長予測とか、色々な情報で組み上げられたのが俺だ。
 俺を作ったもの、そしてこの世界の全てを作り、動かしているのは、リヴァイアという巨大な人工生命体だ。超絶的な性能を持つ生体コンピュータと言っていい。それがこの世界の全ての中心である。
 俺の存在はそいつのさじ加減ひとつ。一応、この世界にも厳格なルールがあり、全てがそれに従って動いていることになっている。建前上は。
 でも、ふいに、俺は本当にそのルールがちゃんと働いているのか不安になるのだ。そんなことはないはずなのに。

 受け付けで終了の確認をとった後、直ぐに奇妙なメールが入った。情報管理省からで、最重要のマークが赤く点滅している。
 情報管理省といえば擬脳個人の情報を扱っている、言ってみれば最重要機関だ。俺にとっては遥かに高いところにある役所で、全く馴染みのないところである。そんなところから最重要のメール? 次から次に、俺を不安に陥れなければ気が済まないのか?
 メールにタッチして開封すると、さらにファスト・トラベルのアイコンが現れた。仕方なくそれにタッチする。そして俺は何だかよく分からない、薄いオレンジ色がかった小さな部屋に飛ばされていた。
 十平方メートルくらいの広さで、タマゴ型の椅子が二つ、ぷかぷか浮かんでいる。あるのはそれだけだ。
 俺が片身を狭くしていると、ポーンと甲高い音がして、緑色の光の玉が目の前に現れた。それが直ぐに人の形に変わる。誰かがファスト・トラベルしてきたのだ。
 現れたのは、銀に深い緑のラインの入ったジャンプ・スーツ姿の、背の高い女性だった。情報管理局のスタッフだ。首に省のマークの入った緑のバンダナを巻き、つばのない帽子もお揃いの緑色のマーク入り。厭味のない、いかにもお役所っぽい、普遍的な感じの美人である。こういうお役所の人間って、ブレインズなのか、それともトータルAIのプログラムなのか、よくわからない。
「初めまして、トキオ様。情報管理省から参りました。お時間、よろしいでしょうか?」
 流石はお役所の職員。声もお手本のような素晴らしい抑揚だ。
「い、いいですよ?」
 何の用か、全く想像出来ない。何も心当たりがない。
「どうぞ、おかけください」
 宙に浮かんだエッグ・チェアのひとつに腰を下ろす。見た目が同じでも、俺が持つ古いバージョンとは段違いにふかふかでなめらかだ。背中を預けるだけで一気に脱力しそうになる。
「さて、トキオ様は、タチキという方をご存じでしょうか?」
 彼女は実に耳障りのよい声で、俺に問いかけた。何か、流されそうな気がする。妙なところに。
「ええ、知ってます」
「タチキ様は現在、消息不明です」
 俺は一瞬、それを聞き流しそうになって、そして我に返った。
「はあ? えっ? タチキ先輩が、消息不明?」
 なんだ、それは。いや、あり得ないだろ。擬脳はリヴァイアの元にあるはずだ。それが消えたってのならともかく。
 しかし彼女は顔色ひとつ変えず、たんたんと説明する。
「現在、タチキ様の擬脳はスリープ状態です。しかしアバターを停止させた記録がありません。行動ログを調べてみましたが、一カ月ほど前、タチキ様ご自身のワークショップを最後に止まっています。ログ解析の結果、おそらくジオ・ポーンにダイブしたのではないかと」
 ジオ・ポーンに? いや、そんなことあり得な……くない?
 タチキ先輩は、俺のダンジョン運営の師匠である。当時、基礎教育を終えたばかりで、他に何も知らなかった俺に全てを教えてくれた。と、同時にどこか不思議な感じがした。何を考えているかわからないというか、この世界そのものに馴染んでないというか。
 俺はタチキ先輩からダンジョン運営を任されるようになると、彼と色々な話をした。あれから何年になるか、どんな話をしていたのか余り思い出せない。ただ、ジオ・ポーンに一方ならない思い入れがあったのは確かだ。
 でもそれで、ジオ・ポーンにダイブとか、ちょっと話か飛び過ぎだ。
「え、えっと、ここ何年もタチキ先輩とは会ってないし、彼が何をしていたのか、どうしたのか、全然わからないです」
 と、答えてみる。そんなの俺に聞くだけ無駄だ。分かっているはずなのに。すると彼女は、当たり前のように、はい、と返した。
「タチキ様の捜索はこちらで続けています。実は今回、その件に関してトキオ様にお願いがあるのです」
 そう言うと彼女は何かを指し示すように掌を出す。そこにポーンと、また緑色の光が現れた。それが形をなして、ちょうどケンタより少し幼い顔つきの少女が、少し怯えた表情で、俺を上目遣いにみていた。
 この少女は丸顔で黒髪のおかっぱ、黒目がぱっちりして、ピンクの頬に小さな鼻がぽつんとしている。ジャンプ・スーツのラインは見たことのないピンク色だ。ちっちゃな手を胸の前でもじもじ動かし、今にも泣きだしそうな雰囲気である。
「この子はミツキ様といい、タチキ様のワークショップで保護されました」
「タチキ先輩のヘルパーなのかな?」
 いえ、と首を振る。
「彼女は元々タチキ様が運営しておられたジオ・ポーンからサルベージされたポスト・カウンターなのです」
 俺は絶句した。
「な、そんなバカな。そんなことがあり得るのか? だって、PC?」
「申請が通ればポスト・カウンターをブレインズに迎い入れることは可能です。ミツキ様も今は立派なブレインズ、ただ、タチキ様が消息不明な現在、保護して差し上げる方がいらっしゃいません。タチキ様からのご要望で、ミツキ様はトキオ様に預かっていただきたい、とのことです」
 預かる? えっ、預かるって?
「はぁ? いやいや、ムリでしょ? 俺にはもうヘルパーいるし、預かるなんて出来ないって」
「大丈夫です。基本的な生活費は支給されますし、基礎学習程度の生活習慣を身につけられれば、ミツキ様に独立していただくこともOKです」
「基礎学習は寝てる時に勝手に覚えるやつでしょ? なんでそれをやらないの?」
「ミツキ様は適応年齢を過ぎていらっしゃるので。大丈夫ですよ、マニュアルもありますし。情報管理局では、基礎学習未習者への支援は行っておりません。タチキ様のご要望もありますし、トキオ様にお任せするのが一番であると判断いたしました」
 いやいや、無理だって。勝手にするなよ。基礎学習なんて大変だぞ。それは要するに、俺たちが普通にやっている基本的なことを教えろってことだろ?
 俺が頭を抱えている隙に、女性スタッフは、ミツキを俺のほうに促した。そして、よろしくお願いします、と頭を下げて、次の瞬間にはファスト・トラベルして消えた。
「えっ? いやいや、ちょっと!」
 と、伸ばした俺の手が虚しく空を泳ぐ。その手を下げると、ミツキと目が合った。彼女は、ぶわっと目が潤んで、そして小さな声で、聞いた。
「タチキが……いない」

「えーと、何から教えたらいいのかな?」
 しかし、ミツキはエッグ・チェアの上で膝を抱えて、そこに顎を乗せて不機嫌そうにしていた。
 グズグズしなくなっただけマシとは思うが、やりにくいことこのうえない。なし崩し的に彼女を預かることになってしまったか、女性スタッフの言う、マニュアルとやらを脇に広げ、何とか俺なりに考えてみる。
「取り敢えず、聞きたいこととかあるかな?」
 しばらく沈黙した後、彼女がぽつりと聞いた。
「ここはどこ? あなた誰?」
「ここはシェア・ルームだよ。俺がホストの共有スペース。で、俺はトキオ、タチキ先輩は、俺の師匠で……」
 しかし、ミツキは視線を落として興味無げにしていた。どうも、そういうのを聞きたいんじゃないようだ。
 確かにこんな見知らぬ場所に放り出されて、唯一の知り合いも失踪してしまったんだ。もっと根本的なことを教えなければ。だからこその基礎学習だ。
 俺は、この世界の成り立ちから説明することにした。目一杯の大きさにウインドゥ開き、それをさらにシェア・ルーム全体まで拡張させる。俺とミツキは宇宙の中にあった。
「ここは空に浮かぶ星の海だ。君も夜空を眺めたことがあるだろ? 俺たちはその星の海の遥か遠くから大きな船に乗ってやってきた。ずっとずっと昔のことだ。これが俺たちのご先祖さまが暮らしていたマザー・アース、母なる星。そこからこういう航路を経て、俗に第八銀河と呼んでいる、今のこの場所に辿り着いた。ここまではいいか?」
 宇宙にマザー・アースからここまでの航路を表示させる。かなりデフォルメしてあるが、問題ないだろう。ミツキは黙って聞いている。
「第八銀河に辿り着いた俺たちは、レビア・システム、通称リヴァイアを使って、この世界をつくり上げたんだ。リヴァイアというのは、そうだな、神様みたいなもんだな」
「トキオは神様じゃないの?」
 うん? そうか、元PCのミツキから見たら、俺たちも似たようなもんだろうな。
「リヴァイアは神様の神様だな。その神様と俺たちのご先祖様は話し合って、もっと上手に生きる方法を探したんだ。そして辿り着いたのが、脳だけになって生きる、ということ。人間の頭の中にはこういう、脳ってのが入っていて、それが人間の大きな部分を決定しているんだ。でも人間は脳以外の全ての部分も含めてひとりの人間なんだ。だから仮想の世界、うーん、なんていえばいいか、そうだな、リヴァイアが作った想像の世界の中で、脳だけになった人間を作り直した。このリヴァイアの想像の世界を、サイ・ワールドと呼んでいる。今、俺やミツキがこうしている世界のことだ」
 ミツキはぽかんとしている。そうだな、いくら画像と一緒に説明しても流石に難しいか。俺だって難しいんだからな。
「今じゃ、ミツキもブレインズなんだぜ。どうやったのかは知らないけど、ミツキも本体は脳だけになって、このサイ・ワールドで元の姿が再現されている」
 気持ち悪い、とミツキが漏らす。
「そうでもないさ、むしろサイ・ワールドは理想郷だ。何でも思い通りに出来る。もちろんルールはあるし少しの不幸や苦労もあるけど、些細なことだ」
 と、自分で言っておきながら、ちょっと苦笑いが出てしまう。俺の苦労は少しばかりじゃない。まあ、相対的にみれば些細なことなんだろうけど。
「脳、俺たちは擬脳と呼んでいるが、それになった俺たちは食べ物を食べなくてよくなったけど、代わりのものが必要になった。それが命の力、ライフ・フォトンだ。このライフ・フォトンを採集するために、ミツキのような人間、ポスト・カウンターを作ったんだ」
 マニュアルに従って、画像を別なものに変える。これを見て少しでも理解の助けになってくれてればいいんだが。
「この世界の外、ほんの僅かズレたところに無の世界がある。全く、
本当に何もない世界だ。それは目には見えないし、普通ではいけない別次元の世界。でも俺たちはそこに行く方法を見つけた。そこに泡宇宙バブル・ユニバースという世界を作り、大地ジオ・ポーンを創造する。そしてそこに人間や動物や植物を育てて、そこからライフ・フォトンを採集する。それが俺やタチキ先輩がしている仕事なんだ」
 ミツキはさっぱりな顔をしていたが、ぽつりと、それって楽しい? と尋ねた。
「楽しい? ええと、うん、そうだな。楽しいかも」
 でもミツキは俺の答えには興味無げに顔を背けた。
「ライフ・フォトンを採集するのは、トリノックスを使う。これは目には見えない、とても小さなもので、これが集まることで様々なことが出来るようになる。ミツキがいたのは、ファンタジー世界だったか? ああ、魔物とか魔族とかいて、魔法とかある?」
 うん、とミツキが頷く。
「例えば、魔法もこのトリノックスのおかげだ。サイ・ワールドとジオ・ポーンを結びつける小さくても大きな道具だな。でもライフ・フォトンは、ええと、空気に溶けやすくて、出来るだけ狭いところで集めるほうがいい。そこでダンジョンと呼ばれる迷宮を作って人間を集める。、そのダンジョンを管理、運営するのが、俺たち、マスターと呼ばれる者たちだ」
 ミツキの表情は変わらない。分かっているのか、いないのか、それとも本当に興味がないのか。微妙に気まずい沈黙だけが、シェア・ルームの中に流れる。
「ああ、ええと、以上だけど、何かある?」
「別に、いい」
 ああ、そう。いや、いいのか?
 その時、ふいにコール音が鳴った。ケンタからだった。
「お疲れさまっス! 授業、どうっスか?」
「終わったよ、取り敢えず」
「了解っス! じゃあ、ワークショップまで来てほしいっス!」
 そうだな、仕事もしないと。その前に。
「ミツキ、アイ・トップの使い方は知ってる?」
「何? それ」
「サイ・ワールドに生きている俺たちには便利なことがたくさん出来るんだ。目を二回、パチパチしてみな」
 ミツキがそれに従う。
「あ、目の前に何か出てきた!」
 多分、俺と同じように正面に五つくらい、アイコンが並んでいるはずだ。
「メニューだよ。視線を向けると拡大されるから、掌で触ると選ぶ。
ええと、じゃあ、インベントリ、持ち物欄を見てみようか」
「これを触るの? あ、何か感覚が……何もない」
「今はカラかも知れないけど、何か買ったりしたら、そこに放り込んでおけばいい。重さは関係ないけど持てる数には制限がある。それは増やすことも出来る」
 それを眺め回しているんだろう、ミツキが首をあちこちに振っている。
「じゃあ、もう一度目をパチパチで閉じる。今度はウインドゥだ。手をこう、鳥のくちばしのようにして、パッと開くと……」
「あ、何か開いた」
「ワーク・ウインドゥだ。映像をみたり人と話をしたり、何かをする時に役に立つ。大きさは自在、最大にすると自分の周囲に広げることも出来る。さっき使ったのもこれ」
 しかし、ミツキはふいに眉を寄せて、またしても気持ち悪い、と呟いた。
「ええと、じゃあ、そろそろ行こうか。仕事をしなくちゃ。移動するのは、ファスト・トラベルを使うと簡単だ。一瞬で好きなところに行ける。行ったことのない場所にはいけないけど、有名なランドマークは最初から表示されてるし……じゃあ、ものは試しだ。俺が移動した後、メールを送るから、それをタッチして」
 俺はメニューを出して自分のワークショップを選び、ファスト・トラベルした。そしてその場所のアドレスを張り付けたメールを彼女に送る。しばらくして、ミツキが現れた。
「出来るじゃないか、合格だよ」

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ダンジョンズ&マスターズ 序章 凶皇の紫煉獄 初校版

 闇が満ちる。
 石畳を打つ小さな靴音が反響する。松明の灯が、単調に続く石の通路を僅かに照らす。人が三人並んでも余裕がある広さだが、人の顔ほどの大きさの石でくみ上げられた天井や壁が、ひどい圧迫感を与えていた。
 息を潜め、松明をかかげて周りを伺い、耳を澄ます。だが彼らに仇なすものの存在は感じられない。
 長くなだらかに下っていた通路はやがて低い階段となった。ゆるやかならせん状に降りたそのどん詰まりにあったのは、先を塞ぐためだけにつけられたような、何の装飾もない、雑で大きな鉄の扉。彼らはその前で立ち止まった。
「ついに来たな」
 彼らの真ん中で、青年が扉に手を添える。茶色の革で出来た鎧に全身を包み、背中には長い剣を背負っていた。黒い短髪がツンツンと上に跳ねていて、意志の強そうな鋭い眼、整った顔だち、剣や腰の革袋は使い込まれていて、見る者が見れば直ぐに彼が手練だとわかるだろう。
 彼の頬の緩みを見て、それを覗き込んだ少女が顔を顰める。
「これからなのよ、ニクス。ちょっと緩んでない?」
 少し甲高い少女の声。彼女は草色の長いローブを身につけ、さらに背中には全身を包み込む大きな緑色のマントを羽織っている。そして身の丈より頭一つ高い、先端が渦を巻いた杖を握っていた。首元に赤い宝石、指に幾つかの濃緑や紅の指輪、彼女は傷や疲労、毒などを治癒する癒し手である。
「ああ、分かってる、フィルニア 。ここからが本番だ」
 ニクスの声に力が籠もる。周りを見渡し、それぞれの顔を確認する。
「いよいよここからが本丸だな」
 赤い長髪を後ろに流した、切れ長の目をした青年、アルニスが言った。彼は騎士に相応しい銀の鎧に身を包み、左腕には小さな鋼の盾、腰には長剣、だがそれは中央の刀身の周囲にさらに三本の細い刃を持った奇妙なもの、を収めていた。松明のひとつは彼が持っていた。
 さらにその後ろには、肩の露出の多い布の服、その上から腰と左肩に革のベルトを通し、短いナイフを何本も差す女がいた。リッジである。茶褐色の顔は日焼けではない。フィルニアとは違う大人の女の体をしていたが、顔は不敵に笑っていて、低めの身長と金色の髪の毛、薄緑の瞳と相まって何とも言えない人懐っこさがあった。リッジは最後尾でもう一本の松明を持っていた。
 その横にいるのが、同じ茶褐色の肌をした、フィルニアと同じような杖を持つ女だった。服装も似たような感じだが、こちらは濃い紺色でマントも同じく濃紺、金髪を腰まで優雅に垂らしていた。彼女、サニは魔術師、一般的にそう呼ばれる存在だった。この世界に満ちる目に見えない力、スクアマと呼ばれるもので奇蹟、つまり魔術を操る。リッジの妹だが傍目から見る分にはリッジよりも幾歳かは上に見える。姉妹ではあるがリッジとサニは容姿も性格も手にした職も違っていた。それがなぜなのか、誰も聞いたことがない。
 ここまでの道程で幾分消耗していたものの、彼らの気合は十分だった。今回で三度目の挑戦になるが、四度目にして初めて最深部の一歩手前にいる。彼ら全員が緊張と興奮を抑えきれなかったとしても無理はない。
 ニクスが扉の把手に手をかけ、力一杯、押し開ける。重い軋みをあげながら、それはゆっくりと開いた。僅かな隙間から風が流れ込む。これまでと明らかに違う、鉱物の僅かに甘い匂いが、くぐもった湿気た空気に混じっていた。
 それでも躊躇わず、扉を精一杯、開け放つ。
 差し込む光に、一瞬、目が眩む。まさか、とリッジが呻いた。
 光に目が慣れて、初めてその異様な光景に言葉を失った。
 ここは地下、どれくらいの深さなのだろうか、かなりの時間、かなりの距離を降りてきたはずなのに、扉の向こうにあったのは、余りにも巨大な空間だった。地下の迷宮を抜けてきたことが嘘みたいに、ぽっかりと丘一つ分くらいの空洞があった。
 そしてそこに鎮座するものがさらに空間を異様なものにしていた。
 城である。人間のものではない歪んだ古城が、扉から伸びた大きな石橋とつながり、そこに存在していた。
 空洞の天井にはキラキラ光る水晶のようなものがびっしりとあり、それが互いに増幅し合うように空間をまばゆい光で満たしている。そしてその光に滲み出るように浮かび上がっているのが、古いダーケンの城、紫煉城であった。四角い岩の土台の上に建つ紫煉城は、四隅に風に揺れる炎のように歪んだ塔を持ち、その中心にあるのがかつての主、ダーケンの凶皇と呼ばれたリュアンドゥの主塔である。
 ダーケンは、赤い肌に漆黒の水牛のような角を持つ、魔族と呼ばれる存在である。血を好み、殺戮に快感を得る邪悪な種族。そんな噂故、ニクスたちが暮らす大陸では、ずいぶん昔にダーケンは一掃されてしまった。だからこそ、地下深くにある古いダーケンの城の存在が神秘的であり、不気味であった。
「うそだろ? こんな……」
 リッジが声を詰まらせる。彼女はこの城の存在を信じていなかった。無理もない、これは容易に想像出来る景色ではない。
 だがみんなを誘い、城の存在を信じ、ここまで引っ張ってきたニクスにとっても、にわかに自分の目を信じられなかった。当代きっての魔導師ヴァトゥーロが、凶皇リュアンドゥの紫煉城を地下に封印した伝説は、千年も前のことなのである。むしろ信じられないのが当然だ。
 みんながその光景に肝を抜かれている中、一足先に自分の仕事を思い出したリッジか、周囲に目を配った。
「ここから城の空中庭園に行けるっぽいな。王座の間は……そこからすぐ下ったところ、くらいか?」
 ひとり、先に歩いて周囲を確かめる。
「古い石橋だ。埃が積もっていて足跡はない、何かがいる感じはしないっぽい。底は……」
 彼女は石橋の淵から底を覗き込もうとして、そこに積もっていた細かな土埃にむせた。
「どうなってんの? 底が見えないっぽい。ここ何なの?」
「そりゃあ、世界最高の魔導師、ヴァトゥーロが自分の命をかけて引き起こした奇蹟だからな。当時、この大陸で猛威を振るっていたダーケンの狂皇を城ごと封印したんだ。もしかしたら底なんてないのかもしれない」
 ニクスが言ってそこに足を踏み入れる。まさか、というリッジの横を抜けて、石橋の真ん中に立つ。
 大きく深呼吸して、目の前にそびえる城を見据える。目指すは真正面に見える主塔の下、王座の間。そこに彼らの目指すものがあった。
「いよいよね」
 フィルニアが横に立つ。その逆手にアルニスが立った。
「さあ、これが最後だ、行くのみ」
 静かに闘志を燃やすアルニスの後ろで、サニが震えながら小さく頷いた。
「き、きたんですね、もう、最後なんですね、終わりなんですね」
「来たよ、サニ。ここまで来たら大丈夫っぽい。気楽気楽」
 リッジに背中を叩かれ、サニは力なく笑った。彼らを眺めて、改めてニクスは大きく頷いた。
「よし、いくぞ!」
 五人はしっかりとした足どりで石橋を踏みしめた。

 城に近づくにつれ、その異様さに圧倒される。
 石橋はまるで侵入者を拒むかのように長く感じられ、闇が渦巻く底は知れない。天井からの不気味に眩い光の中で土埃が舞い、僅かに甘く淀んだ空気が不安をかきたてる。
 長い時間をかけて、五人はようやく城の空中庭園に辿り着いた。
 庭園といっても、その名残があるだけで、緑が全くない。腐った土の濃い臭いが鼻をつき始め、そこがすでに死に絶えた場所であることを伝える。
 庭園は意外と広かった。蔓植物のためのアーチかあちこちにあり、いたるところに花を植えていたであろう花壇があって、それこそ迷宮の趣があった。
 だがニクスは、ある意味、安心していた。そこに生きたものの形跡がなかったからだ。生物ならばそれが人間であろうと動物であろうと邪悪な魔族ダーケンの類であろうと、食べ物を食べ、水を飲み、歩けば足跡も残る。それらのこん跡が一切ないのだ。生物がいない、つまり安全、ということだ。何かの罠が仕掛けられているかもしれないが、リッジは罠については専門である。その腕をニクスは疑ったことがない。さらにここまで古い城なら罠があったとしても作動するかどうかわからない。危険に類するものの存在はさほど高くはない。もちろんそれでもニクスは警戒を一切怠らない。
 ニクスたちはうねうねと花壇を避けつつ進み、揃って主塔への入り口に辿り着いた。そこは金色の豪華な扉があった。体格の良いダーケンが使うのに相応しく、ニクスたちの倍の高さとかなりの横幅があった。
「この下だな」
 ついに来た。王座の間は目の前だ。ニクスは興奮を抑えながら、扉に手を伸ばす。
 その時、ふいに大きな影が落ち、ニクスは反射的に飛び退いていた。そこに重い地響きを立てて、巨大な何かが降ってきた。埃が舞い上がり、落ちてきたものを包み隠す。だがニクスはその中に、異様に光る真紅の眼を見つけた。
「な、なんですか?」
「何が起こったのだ?」
 それはゆっくりと身を起こし、胸を張って、そして吠えた。
 城全体をも揺るがすような咆哮に、ニクスたちは耳を押さえて耐えなければならなかった。それだけではない。心臓を鷲掴みにされるような激しい衝撃が全身を走った。一部の魔物が使う、魔の咆哮である。それなりに訓練と経験を積んでいない者なら、それだけで前後不覚、失神することもある。
「これは、ミノサスス?」
「まさか、でもマジっぽい」
「う、うそですよね? こんなところにいるはずないですよね?」
 そこにいる全員が、突然現れたものを信じられない。そのはずだ、ミノサススは身の丈は人間の四倍、全身が真っ黒い毛で覆われ、鋭く伸びた雄々しい角を二本生やした牛の頭を持ち、人に近い体で二本足で立つ魔物である。後ろ足は牛の蹄だが前足は人間の腕と同じで、このミノサススは自分の身長と同じ長さと大きさはあるだろう、巨大な戦斧を持っていた。その刃の大きさだけでもニクスを覆い隠せるほどだった。
「なんだ、これは。なんでいきなりこんなやつが……」
 ミノサススは深い迷宮を住処にするという。だが周囲に生命のこん跡のないこんなところにいるのは余りにも不自然だ。
 しかしそんな考えを完全に裏切り、それと目の前で対峙していた。ミノサススの真紅の瞳は、明らかに凄まじい憎悪が渦巻いていた。
「リュアンドゥが仕掛けた罠か? それとも俺たちを寄せつけないための門番か? どちらにしてもこいつを倒さなければ先には……」
 躊躇するニクスより先に、ミノサススが動いた。ニクスたちの真ん中に向かって、戦斧を振り下ろす。
 ニクスたちは左右に散った。怪物の動作は遅い。避けるのは簡単だ。そう思った。
 だが凄まじい風圧と、地面を抉った衝撃がニクスたちを想像以上に吹き飛ばした。
 したたかに体を打ちつけ、ニクスは呻いた。仲間をみるとやはり同じように地面に転がっていた。。
「早く起きろ! 次がくるぞ!」
 ニクスが叫ぶ。ミノサススの次の一撃がアルニスを真上から襲った。間一髪、体の向きを変えてそれをかわす。その反動を上手く捌いて立ち上がったアルニスの手は、剣を抜いて盾を構えていた。
 その間に他のみんなも立ち上がり、武器を手に対峙した。
 ニクスも長剣を抜いて構える。ここまで来て引き返す選択肢などないのだ。
 ミノサススが両手で戦斧を振り上げ、咆哮を放つ。耳をつんざく凶悪な叫び。それは牛のそれに近くともまるで別物だった。びりびりと震える鼓膜と心臓を掌で叩いて誤魔化し、ニクスたちはそれぞれ得物を持つ手に力を入れた。
 最初に動いたのはニクスだった。懐に飛び込み、鋒を脚の付け根に打ち込む。ミノサススは、ギャッと呻いたが、僅かに体を震わせただけで、戦斧を横に振り払った。それを上体を反らしてギリギリでかわす。だがその風圧だけで吹き飛ばされそうになった。
 間髪入れずにアルニスが逆側から飛び込んだ。
「剣よ! 全てを斬り裂け!」
 そう叫んだ瞬間、刀身が凄まじい勢いで回転し始めた。
 魔剣ブレン・ダヴラウ、アルニスが父から受け継いだ剣である。仕込まれた魔術により、鍔より先が回転し、その刃に触れたものをズタズタにする。
 アルニスがそれを怪物の脇腹に突っ込む。その魔剣の威力は皮を裂き、肉を切り刻み、内臓をぐちゃぐちゃにし、心の臓を貫く、はずだった。
 だがブレン・ダヴラウは期待に反して濃い黒毛と分厚い皮を巻き込んだだけで回転を止めた。手元でギチギチと火花が散る。あり得ぬ! と、アルニスの顔が青ざめる。
 ミノサススが脇を締め、腕を振った。盾で逃がそうとするが、その勢いに負け、アルニスは地面に転がった。盾は留め金が根元が千切れて、遠くに飛んで行った。アルニスの得意な戦法だった。ブレン・ダヴラウの一撃目を外しても、慣れた盾捌きで相手の反撃をかわし、次に繋げる。だがそれは圧倒的な力の前に何の功ももたらさなかった。盾の無くなった左腕には、代わりに強烈な痛みが溢れていた。
 さらにミノサススの次の一撃が振り上げられる。
「アルニス、危ない!」
 怪物の顔を目掛け、リッジが短剣を投げた。狙い違わず右目を直撃し、ミノサススは仰け反った。
 よし、と腕を挙げたリッジだったが、その顔がすぐに驚愕に変わる。ミノサススが刺さった短剣を引き抜いたからだ。その右目には確かに傷があったが、ミノサススものともしない。
「どうやら無理っぽい……こいつは……」
「姉さん、どいてください! いきます!」
 羽織ったマントを翻し杖を振り上げたサニが、その渦巻いた先端をミノサススに向ける。と、同時に、怪物の顔の鼻先で空気が歪み、凄まじい炎が弾け飛んだ。獄炎、或いは爆縮、そう呼ばれる魔術である。
 激しい炎の旋風に深く顔を煽られ、さしものミノサススも膝をついた。足元のアルニスが潰されまいと転がって避ける。
 一瞬、全員の期待が高まった。いける、やれる! そう思った瞬間、それが間違いだと思い知らされる。
 ミノサススの足元が爆発したように弾けると、その巨体が凄まじい勢いで突進したのである。宙を舞った巨体の先にはサニがいた。
「うそですよね? これ、うそですよね?」
 青ざめたサニが避けようとする。その足元を雄牛の角が大きく抉り、サニはそこから高く跳ね飛ばされた。そして地面に叩きつけられる。
「サニ!」
 フィルニアは彼女を助けようと、マントを翻した。その時、フィルニアの背筋にぞくりと冷たいものが走った。顔を上げたミノサススと目があったからだ。案の定、次の瞬間にはフィルニア目掛けて巨体が飛び掛かっていた。
 足が竦んで動作が遅れたフィルニアは、怪物の突進に為す術を見出せなかった。死ぬ! 恐怖で顔が引きつる。
「好き放題、暴れてんじゃねぇ!」
 ニクスが猛牛の首元に長剣を打ちつける。その勢いのままにミノサススは顔面を地面に擦りつけ、角で石畳を大きく削った。
 だがそれでもミノサススを止められない。首の一振りでニクスは振り払われ、花壇の角に体を打ちつけた。全身に痛みが走り、腹の奥底から込み上げてきたものを、たまらずぶちまけた。それは大量の血、だった。頭のどこかからも同じものが流れだし、頬を伝った。鼻からも強烈な錆の臭いがした。
「まだ、まだ、だ」
 長剣を杖代わりにして立ち上げる。しかしニクスの腰から下は全く力が入らなかった。
「無理っぽい、もう無理っぽいよ!」
 リッジが悲鳴を上げる。ふと見ると、アルニスが金色の扉の前にいた。それを必死に開けようとする。
「ダメだ、ビクともしない!」
 ぶおぉっ! と、けたたましい咆哮が上がった。ミノサススはほとんど傷を受けないまま、再び立ち上がった。
 まずい、このままでは、全滅する!
 奥歯を噛み締める。せっかく、せっかくここまで来たのに! と、ニクスは目の前の惨状に呻いた。
 その時、緑色の光の帯びが自分の体に巻きついていることに気がついた。見ると、フィルニアやアルニス、リッジにもそれがあった。そしてその帯びは全てサニが持つ杖の先端から伸びていた。彼女は目を閉じて、必死に何かを唱えている。
 それが何か、気づいたニクスが叫ぶ。
「ま、待てッ! まだだ、まだやれる! 俺は、まだ……」
 声はそこでかき消された。視界がぐにゃっと捩れ、渦を巻き、全身がその中に引っ張られた。そしてニクスたちは抵抗する間もなく、その場から消えて失せた。


 やれやれ、ようやく終わったか。
 俺は映像を映していたウインドゥを閉じて、丸いカプセルのような赤の椅子に座った。お気に入りのエッグ・チェアに体を預け、心地よい傾きを愉しむ。
 しかし流石に今のはヤバかったな。ちょっとミノスが強すぎたか? いやいや、ラスト手前のNPCはあれくらいじゃなきゃ。
 まあ、こちらとしても死んでもらっては困るわけだし、このところ、このダンジョンに挑戦するPCもめっきり少なくなっているから、もう少し一考する必要はあるかも知れない。
 ふと体に冷たいものを感じる。ちょうど汗が冷えるとこんな感じになるだろうか。それは知識として知っているだけで実感したことはないものの、不思議とそうであるような気がした。
 思いも寄らないことだった。たかがPCたちの行動に、俺はよほど入れ込んでいたんだろう。
 目の前に新しいウインドゥを開く。背景をミラーにし、そこに自分の顔を映した。興奮している感じはしない。いつも以上に普段通りだ。代わり映えしない、いつもの俺。キレイなスキンヘッド、キリッとした眉、鼻筋は通り、口はキリリと結び、目は鋭く……やめよう、ちょっと虚しくなってきた。銀色に紺色のラインが入ったジャンプ・スーツ、お揃いの紺のブーツと手袋。デフォのアバターだが、もう少しマシなのにチェンジしたい。持ち合わせの問題でなかなか思い通りにならないが。
「アニキ、アニキ!」
 横に別のウインドゥが開き、見知った顔が現れた。見た目はまだ若い、丸顔で黒髪が爆発したように立っている、瞳の大きな、少年と言っても良いだろう。まあ、年齢がどうかは聞かないとして。彼は俺と同じジャンプ・スーツだが、銀に紺ではなくオレンジ色のライン、そしてブーツと手袋だった。
「アニキ、惜しかったっスね! やっぱ、ミノタウロス、強かったっス!」
「そうだな、ケンタ。で、あいつら、帰ったのか?」
 ケンタは上気した顔で頷いた。彼はあのPCたちにやたら入れ込んでいて、行動を追っては一喜一憂している。たかだかポスト・カウンター、PCだ。いってみれば経済動物、俺たちの家畜のようなものなのに。
「入り口に転送されてたっスよ。仲間同士で一悶着あって、直ぐにも街に引き上げたみたいっス」
「そうか、じゃあ、ダンジョンのリスポーンをやっといてくれ」
「えっ? いいんっスか? やつら帰ったばっかなのに」
 リスポーンというのは、ダンジョンを初期状態に戻すことだ。正確には冒険者に盗られた宝箱の中身やダメージを受けたNPCを復活させることだが、本来はもう少し時間を空けたほうがいい。忘れ物を思い出して引き返してきたPCが、復活した宝を見つけるのはちょっとマズい。だがあの様子ならそれはないだろう。
「いいさ、ケンタ。もう奴らはしばらく来ない。後は頼む」
「了解っス。そうだ、メール来てないっスか? オイラのところにはもう来たっス」
 うん? そう言えば視界の片隅に何か光ってるな。
 俺がそこに視線を送ると、四角い封筒のアイコンが拡大された。差出人は……メンテナンス局からだ。だいたい中身は想像がつくが、取り敢えずアイコンにタッチして封を切る。
 思った通り、俺のブレイン、つまり脳、俺の本体である擬脳のメンテに関することだった。
 俺はため息をつかなければならなかった。正直、余り好きじゃない。だが、規則で決まっていることだ。無視は出来ない。
「やっぱり脳のメンテだ。ケンタはもうやったのか?」
「昨日、やったっスよ? アニキにも言ったっス」
 そうだっけか? 毎日毎日同じことの繰り返し、記憶に残るようなことはほとんどない。最近は昨日のことすら思い出せないことも少なくない。
「メンテはしといたほうがいいっスよ。強制メンテになったら面倒っス」
「そうだな、ケンタ。俺も脳を洗ってくるよ。ちょっと後を頼む」
「了解っス! スッキリしてきてくださいっス!」
 そんなもんじゃないんだよな。

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ダンジョン&マスター 第一章 未校正終盤まで

   第一章 冒険者たち

 闇が周囲に満ちる。
 石畳を打つ小さな靴音が反響する。松明の灯が、単調に続く石の通路を僅かに照らす。天井も壁も一抱えもある白い石でくみ上げられた通路の先は、闇に沈み見えない。
 息を潜め、周りを伺い、耳を澄ます。だが彼らに仇なすものの存在は感じられない。
 通路はやがてなだらかに下っていき、低い階段となった。そしてそのどん詰まりにあったのは、大きな鉄の扉。彼らはその前で立ち止まった。
「ついに来たな」
 彼らの真ん中で、青年が扉に手を添える。茶色の革で出来た鎧に全身を包み、背中には長い剣を背負っている。黒い短髪がツンツンと上に跳ねていて、意志の強そうな鋭い眼、整った顔だちをしていた。剣や腰の革袋は使い込まれていて、見る者が見れば彼がすぐに手練だとわかるだろう。
 彼の頬の緩みを見て、それを覗き込んだ少女が顔を顰める。
「ここからなのよ、リクス。ちょっと緩んでない?」
 少し甲高い少女の声。彼女は草色の長いローブを身につけ、さらに背中には全身を包み込む大きな緑色のマントを羽織っている。そして身の丈より頭一つ高い、先端が渦を巻いた杖を握っていた。首元に光る赤い宝石、指に幾つか光る指輪、彼女は傷や疲労、毒などを治癒する癒し手である。
「ああ、分かってる、フィルニア 。これからが本番だ」
 ニクスの声に力か籠もる。周りを見渡し、それぞれの顔を確認する。
「いよいよここからが本丸だな」
 赤い長髪を後ろに流した、切れ長の目をした青年、アルニスが言った。彼は騎士に相応しい銀の鎧に身を包み、左腕には小さな鋼の盾、腰には長剣の周囲にさらに三本の細い刃を持った、奇妙な剣を収めていた。松明のひとつは彼が持っていた。
 さらにその後ろには、肩の露出の多い布の服、その上から腰と左肩に革のベルトを通し、短いナイフを何本も差す女がいた。リッジである。茶褐色の顔は日焼けではない。フィルニアとは違う大人の女の体をしていたが、顔は不敵に笑っていて、低めの身長と金色の髪の毛、薄緑の瞳と相まって何とも言えない人懐っこさがあった。リッジはこれまで、最後尾でもう一本の松明を持っていた。
 その横にいるのが、同じ茶褐色の肌をした、フィルニアと同じような杖を持つ女だった。服装も似たような感じだが、こちらは濃い紺色でマントも同じく濃紺、金髪を腰まで優雅に垂らしていた。彼女、サニは魔術師、一般的にそう呼ばれる存在だった。この世界に満ちる目に見えない力、スクアマと呼ばれるもので奇蹟、つまり魔術を操る。リッジの妹だが傍目から見る分にはリッジよりも幾歳かは上に見える。姉妹ではあるがリッシとサニは容姿も性格も手にした職も違っていた。それがなぜなのか、誰も聞いたことがない。
 ここまでの道程て幾分消耗していたものの彼らの気持ちは十分だった。これまでに三度、ここに挑戦していたが、四度目にして初めて、最深部の一歩手前にいる。彼ら全員が緊張と興奮を抑えきれなかったとしても無理はない。
 リクスが扉の把手に手をかけ、力一杯、押し開ける。重い軋みをあげながら、それはゆっくりと開いた。
 差し込む光に、一瞬、目が眩む。まさか、とリッジが呻いた。
 光に目が慣れて、初めてその異様な光景に言葉を失った。ここは地下、どれくらいなのだろうか、かなりの時間、かなりの距離を降りてきたはずなのに、扉の向こうにあったのは、余りにも巨大な空間だった。地下の迷宮を抜けてきたことが嘘みたいに、ぽっかりと丘一つ分くらいの空洞がそこにはあった。
 そしてそこに鎮座するものがさらに空間を異様なものにしていた。
 城である。人間のものではない歪んだ古城が、扉から伸びた大きな石橋とつながり、そこに存在していた。
 空洞の天井にはキラキラ光る水晶のようなものがびっしりとあり、それが互いに増幅し合うように空間をまばゆい光で満たしている。そしてその光にとりわけ浮かび上がっているのが、古いダーケンの城、紫煉城であった。四角い岩の土台の上に建つ紫煉城は、四隅に風に揺れる炎のように歪んだ塔を持ち、その中心にあるのがかつての主、ダーケンの凶皇と呼ばれたリュアンドゥの主塔である。
「うそだろ? こんな……」
 リッジが声を詰まらせる。彼女はこの城の存在を信じていなかった。無理もない、誰かこんな地下深くに城があると思うだろうか。
 だがみんなを誘い、城の存在を信じ、ここまで引っ張ってきたリクスにとっても、ここは初めてでにわかに自分の目を信じられなかった。魔術師ヴァトゥーロが凶皇リュアンドゥの紫煉城を地下に封印した伝説は、千年も前のことなのである。むしろ信じられないのが当然だ。
 皆がその光景に肝を抜かれている中、一足先に自分の仕事を思い出したリッジか、周囲に目を配った。
「ここから城の空中庭園に行けるっぽいな。王座の間は……そこからすぐ下ったところ、くらいか?」
 ひとり、先に歩いて周囲を確かめる。
「古い石橋だ。埃が積もっていて、何かがいる感じはしないっぽい。底は……」
 彼女は石橋の淵から底を覗き込もうとして、そこに積もっていた細かな土埃にむせた。
「どうなってんの? 底が見えないっぽい。ここ何なの?」
「そりゃあ、世界最高の魔術師、ヴァトゥーロが自分の命をかけて引き起こした奇蹟だからな。当時、この大陸で猛威を振るっていたダーケンの狂皇を城ごと封印したんだ。もしかしたら底なんてないのかもしれない」
 リクスが言ってそこに足を踏み入れる。まさか、というリッジの横を抜けて、石橋の真ん中に立つ。
 大きく深呼吸して、目の前にそびえる城を見据える。目指すは真正面に見える主塔の下、王座の間。そこに彼らの目指すものがあった。
「いよいよね」
 フィルニアが横に立つ。その逆手にアルニスが立った。
「さあ、これが最後、行くのみ」
 静かに闘志を燃やすアルニスの後ろで、サニが震えながら小さく頷いた。
「き、きたんですね、もう、最後なんてすね、終わりなんですね」
「来たよ、サニ。ここまで来たら大丈夫っぽい。気楽気楽」
 リッジがサニの背中を叩く。彼らを眺めて、改めてリクスは大きく頷いた。
「よし、いくぞ!」
 五人はしっかりとした足どりで石橋を進んで行った。
 城に近づくにつれ、その異様さに圧倒される。まるで侵入者を拒むかのように遠くに感じられ、闇が渦巻く底は知れない。天井からの不気味に眩い光の中で、土埃が舞い、淀んだ空気がかき乱される。
 長い時間をかけて、五人はようやく城の空中庭園に辿り着いた。
 庭園といっても、その名残があるだけで、緑が全くない。腐った土の濃い臭いが鼻をつき始め、そこがすでに死に絶えた場所であることを伝える。
庭園も意外と広かった。蔓植物のためのアーチかあちこちにあり、いたるところに花を植えていたであろう、花壇があって、迷宮の趣があった。
 だがリクスは、ある意味、安心していた。そこに生きたものの形跡がなかったからだ。生物、それが人間であろうと動物であろうと邪悪な魔物、ダーケンの類であろうと、食べ物を食べ、水を飲み、歩けば足跡も残る。それらのこん跡が一切ないのだ。生物がいない、つまり安全、ということだ。何かの罠が仕掛けられているかもしれないが、リッジは罠については専門である。その腕をリクスは疑ったことがない。さらにここまで古い城なら罠も作動するかどうかわからない。
 リクスたちはうねうねと庭園を進み、揃って主塔への入り口に辿り着いた。そこは金色の豪華な扉があり、体格の良いダーケンのものらしくリクスたちの倍の高さとかなりの横幅があった。
「この下だな」
 ついに来た、王座の間は目の前だ。リクスは興奮を抑えながら、扉に手を伸ばす。
 その時、ふいに大きな影が落ち、リクスは反射的に飛び退いていた。そこに重い地響きを立てて、巨大な何かが降ってきた。
「な、なに?」
「何が起こった?」
 それはゆっくりと身を起こし、胸を張って、そして吠えた。
 城をも揺るがすような咆哮に、リクスたちは耳を押さえて耐えなければならなかった。長い長い咆哮の後、リクスはそれと目を合わせた。
「これは、ミノサスス?」
「まさか、でもまじっぽい」
「う、うそですよね? こんなところにいるはずないですよね?」
 皆が突然現れたものが信じられない。そのはずだ、ミノサススは身の丈は人間の四倍、鋭く伸びた雄々しい角を二本生やした牛の頭を持ち、人に近い体で二本足で立つ魔物である。古くはダーケンが造ったと言われているが、後ろ足は牛の蹄だが前足は人間の腕と同じで、このミノサススは自分と同じ長さの戦斧を持っていた。その刃の大きさだけでもリクスの身長ほどもあった。
「なんだ、これは。なんでいきなりこんなやつが……」
 ミノサススは深い迷宮を住処にするという。だがこんなところにいるのは余りにも不自然だ。生き物として存在できるはずがない。
 しかしそんな考えを完全に裏切り、それと目の前で対峙していた。ミノサススの目はまるで子を殺されたかのような憎悪が渦巻いているように見えた。
「リュアンドゥが仕掛けた罠か? 俺たちを寄せつけないための門番か? どちらにしてもこいつを倒さなければ先には……」
 躊躇するリクスより先に、ミノサススが動いた。リクスたちの真ん中に向かって、戦斧を振り下ろす。
 リクスたちは左右に散った。避けるのは簡単だ。そう思った。
 だが凄まじい風圧と、地面を抉った衝撃がリクスたちを想像以上に吹き飛ばした。
 したたかに体を打ちつけ、リクスは呻いた。仲間をみるとやはり同じように呻いていた。
「早く起きろ! 次がくるぞ!」
 リクスがそう叫んで、みんなが理解する。ミノサススの次の一撃がアルニスを真上から襲った。地面を転がってそれを避ける。吹き飛ばされた衝撃を上手く捌いて立ち上がったアルニスは、もう自分の剣を抜いて盾を構えていた。
 その間に他の皆も立ち上がり、武器を手に対峙した。
 リクスも長剣を抜いて構える。ここまで来て引き返す選択肢などない。
 ミノサススが戦斧を振り上げ、咆哮を放つ。耳をつんざく凶悪な叫び。びりびりと震える鼓膜を掌で叩いて誤魔化し、それぞれ得物を持つ手に力を入れた。
 先に動いたのはリクスだった。懐に飛び込み、鋒を脚の付け根に打ち込む。ミノサススは、ギャッと呻いたが、僅かに体を震わせたただけで、戦斧を横に振り払った。それを上体を反らしてギリギリでかわす。だがその風圧だけで吹き飛ばされそうになった。
 間髪入れずにアルニスが逆側から飛び込んだ。
「剣よ! 全てを斬り裂け!」
 そう叫んだ瞬間、刀身が凄まじい勢いで回転し始めた。
 魔剣ブレン・ダヴラウ、アルニスが父から受け継いだ剣である。その刃は触れたものをズタズタにする。
 アルニスは、怪物の脇腹に突っ込んだ。肉を切り刻み、内臓をぐちゃぐちゃにし、心の臓を貫く、はずだった。
 だがブレン・ダヴラウは期待に反して分厚い皮を巻き込んで回転を止めた。うそだろ? とアルニスの顔が青ざめる。
 ミノサススが脇を締め、腕を振った。盾で逃がそうとするが、その勢いに負け、アルニスは地面に転がった。盾は留め金が根元が千切れて、遠くに飛んで行った。アルニスの得意な戦法だった。ブレン・ダヴラウの一撃目を外しても、慣れた盾捌きで相手の反撃をかわし、次に繋げる。だがそれは圧倒的力の前に何の功ももたらさなかった。
「アルニス、危ない!」
 右の拳を振り上げたミノサススの顔を目掛け、リッジが短剣を投げた。狙い違わず右目を直撃し、ミノサススは流石に仰け反った。
 よし、と腕を挙げたリッジだったが、その顔がすぐに驚愕に変わる。ミノサススが刺さった短剣を引き抜いたからだ。その右目には確かに傷があったが、ミノサススものともしない。
「どうやら無理っぽい……こいつは……」
「姉さん、どいて! いくよ!」
 杖を振り上げたサニが、その渦巻いた先端をミノサススに向ける。と、同時に、怪物の顔の鼻先で空気が歪み、凄まじい炎が弾け飛んだ。獄炎、或いは爆縮、そんな風に呼ばれる魔術であった。
 その激しい炎の激流に、さしものミノサススも膝をついた。潰されまいとアルニスが転がってそれを避ける。
 一瞬、全員に安堵が広がった。いける! そう思った瞬間、それが間違いだと思い知らされる。
 ミノサススの足元が爆発したように弾けると、その巨体が凄まじい勢いで突進したのである。
「うそですよね? これ、うそですよね?」
 狙われたサニか避けようとする。その足元を雄牛の角が大きく抉り、サニは跳ね飛ばされて宙を舞った。そのまま背中からどさりと地面に叩きつけられる。
「サニ!」
 フィルニアは彼女を助けようと、マントを翻した。その時、フィルニアの背筋にぞくりと冷たいものが走った。顔を上げたミノサススと目があったからだ。案の定、次の瞬間にはフィルニアに向かって巨体が飛び掛かった。
 足が竦んで動作が遅れたフィルニアは、怪物の突進に為す術を見出せなかった。死ぬ! 恐怖で顔が引きつる。
「好き放題、暴れてんじゃねぇ!」
 リクスが雄牛の頭目掛けて長剣を打ちつける。その勢いのままにミノサススは顔面を地面に擦りつけ、角で石畳を大きく削った。
 だがそれでもミノサススを止められない。首の一振りでリクスは振り払われ、花壇の角に体を打ちつける。全身に痛みが走り、腹のそこから込み上げてきたものを、たまらずぶちまけた。それは大量の血、だった。頭のどこかからも同じものが流れだし、頬を伝った。鼻からも強烈な錆の臭いがした。
「まだ、まだ、だ」
 長剣を杖代わりにして立ち上げる。しかしリクスの腰から下は全く力が入らなかった。
「無理っぽい、もう無理っぽいよ!」
 リッジが悲痛な叫び声を上げる。ふと見ると、アルニスが金色の扉の前にいた。それを必死に開けようとする。
「ダメだ、ビクともしない!」
 ぶおぉっ! と、けたたましい咆哮が上がった。ミノサススはほとんど傷を受けないまま、再び立ち上がった。
 まずい、このままでは、全滅する!
 奥歯を噛み締める。せっかく、せっかくここまで来たのに! と、リクスは目の前の惨状に呻いた。
 その時、何かの光の帯びが自分の体に巻きついていることに気がついた。見ると、フィルニアやアルニス、リッジにもそれがあった。そしてその帯びは全てサニから伸びていた。
 気づいたリクスが彼女の名を叫ぶ。
「ま、待てッ! まだだ、まだやれる! 俺は、まだ……」
 声はそこでかき消された。視界がぐにゃっと捩れ、渦を巻き、全身がその中に引っ張られた。そしてリクスたちは抵抗する間もなく、その場から消えて失せた。

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ダンジョン&マスター ゼレンの物語

異世界ベメルオーガ→異世界ベルガメオ(オーガの響きが悪い)
リクー→リクス(主人公っぽい名前に)
PC(パーソン・シチズン→ポスト・カウンター)
ブレインズか創造した泡宇宙の中で、実際に生命活動をしている存在。ありとあらゆる生命。ジオポーンではスクアマを採集できる生物、特に人間のことを指すことが多い。
NPC(ノーマル・パーソン・シチズン→ノン・ポスト・カウンター)
ブレインズが創造した、生命活動をしない生物。任意に配置し役割を与えることができる。ざっくりいえばプログラム通りに動く人造生物
リスポーン
宝箱やNPCが一定時間を経て復活すること。冒険者に宝箱の中身を持ち去られても、あとで復活させることで再び別の(或いは同じ)冒険者を呼び寄せることができる。劇中ではその不可解な現象(盗った宝が復活)に神、それに近いもの、主などと呼ばれる何かの存在を疑う者もいる
ハクスラ(ハック&スラッシュ)
宝箱がリスポーンするタイミングを見計らってダンジョンに潜り、比較的浅い階層で何度も同じ宝を持っていくこと。劇中では漁り屋(小銭漁り)と呼ばれ、軽蔑される。
ゼレン
リクスの父親。一流の冒険者だったが、リクス誕生を期に街に腰を落ち着け、衛兵や漁り屋(ハクスラ)をやっていた。だがエニキスに誘われて伝説の刀キリサマ・ブレードを求めて冒険者に復帰する。
ラティーラ
ゼレンとともに冒険者をやっていた。冒険の途中で知り合った街の名士の男と結婚してフィルニアを産む。エニキスと共に再び冒険に出るゼレンを止めようとする。
エニキス
病弱なアルニスのために伝説の宝ヴァトゥーロの魔除けを求め、紫煉城へと向かう。ゼレンとは古い友人。

ゼレンとラティーラは数人でパーティを組んで冒険者として名を馳せていた。だが結婚し、子供ができたために街に落ち着いて、比較的安全な仕事て生計を立てていた。しかしまだ見ぬ様々な宝を求め、気持ちは落ち着けずにいた。
そんなゼレンの前に貴族のエニキスが現れる。彼は以前、ゼレンと共に領地の危機に立ち向かい、互いを友と認めていた。
エニキスも最近になって息子が生まれたが、病弱であり成人までは生きられないと告げられていた。産後すぐに妻を失い、このまま息子も失ってしまう。唯一の救う手段は、かつて深淵の眷属ダーケンの王、リュアンドゥを封印したヴァトゥーロの魔除けだけだった。魔除けには生命を回復させる強い力があったのだ。
それを求めてリュアンドゥの居城、紫煉城へと向かおうとする。エニキスはそのためにゼレンに協力を求めてきたのだ。そしてゼレンにも諦めきれないものがあった。王座の間にあるという伝説の刀キリサマ・ブレードだった。
二人は街で仲間を募り、地下深くに封印された城に向かおうとする。だが互いに子供を持つラティーラは真っ向から反対する。その反対を押し切ってゼレンとエニキスはダンジョンへと旅立った。
旅は順調とは言い難く、ダンジョンに突入してからも罠や魔物との戦いでパーティは消耗していく。だがそれとともにゼレンとエニキス、仲間たちの絆は深く固いものになっていった。
ダンジョンは地下に行くほど広く異様な空間へと変わっていく。巨大な城が横たわっているのである。強力な魔物を退け、満身創痍のゼレンたち。そして辿り着いた王座の間で、エニキスは魔除けを発見する。だがそれを手にしたエニキスに襲いかかったのは、死んでなお呪いの力で戦い続けるリュアンドゥだった。
すべての力を振り絞り、何とかリュアンドゥを倒したかにみえたが、一瞬の隙をつかれ、ゼレンは負傷し、仲間たちも次々とやられていった。
そしてエニキスも倒れようとした時、ゼレンは結界を張って自分とリュアンドゥを閉じ込め、エニキスを転移の魔法でダンジョンの外へと逃がした。
持ち帰った魔除けによって息子は体を直し、王から大きな栄誉と報奨を得た。だがゼレンを見殺しにしたとラティーラに責められ、エニキスは自分の領地に戻っても、決して浮かばれることはなかった。
幼くして父親の死を聞かされたリクス、責める母親を見ていたフィルニア、父親は卑怯者ではないのかと悩むアルニス、三者は再会し、因縁の紫煉城に挑む。
※劇中劇なので基本的にシンプルなストーリーにする。
※この物語そのものは前日談であり、劇中では直接語られない。

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ダンジョン&マスター

異世界ベメルオーガ
ベメルオーガには5つの大陸がある。中央に位置するゲーペルーア、北西のアドヴァ、南西のスティーグ、北東のスレイジ、北西のフィゼル。物語の舞台となるゲーペルーアは、人間が多く住むものの、かつて大陸を我が物顔で闊歩していたダーケンやドラゴンなどの怪物が闇に潜んでいる。
主人公たちは深淵の眷属と呼ばれるダーケンの遺跡である地底の城の最深部、王座の間を目指している。そこには伝説の剣『キリサマ・ブレード』があるはずなのだ。

トミオ
主人公。疑脳世界て生きるブレインズ。ゲーペルーアを運営している。最近は師匠にあたるタチキの失踪もあって運営に行き詰まっている。
ケンタ
トミオのヘルパー。トミオを兄貴と慕っている。仕事には熱心で現状に文句はなく、NPCたちの行動に興味津々。疑脳の一部に機能障害がある。
ミツキ
タチキが残したヘルパー。トミオが預かることになる。無口であまり感情を表に出さない。実は元はNPCだった。
タチキ
トミオに惑星運営の手法を教えた師匠にあたるブレインズ。ミツキを残し、古いシステムにダイブして消息不明となる。
カナダ
トミオの友人。最新のシステムと多額のスクアマ(ライフ・フォトン)を投入して惑星全体をオープン・ワールドで管理している。だが管理に失敗しシステムをリセットしてスリープに入った。
スクアマ
ヴァトゥーロ
ダーケンの王リュアンドゥに反旗を翻した人間の魔導師。強力な魔除けのアミュレットによってリュアンドゥを封じた。だが力を使い果たし没した。
リュアンドゥ
太古に大陸を支配し紫煉城を居城にしたダーケンの王。凶皇と呼ばれる。伝説の刀キリサマ・ブレードを手にしたことで、大陸の覇権を握った。しかし支配の絶頂期に反旗を翻した人間たちによって地下に封印される。
ライフ・フォトンの別名。この世界での貨幣である。
ライフ・フォトン
人類など生物が活動した時に出る生命エネルギー。感情の揺れなどによっても放出量が変わる。特に人類の放出するライフ・フォトンは大きい。危機的状況に陥ればさらに多くなるが、大勢が煽動されるような行動はあまり増えない。また戦争などが続けば増える量より人間そのものの損失が大きくなったりと、バランスの良い運営が必要になる。
オープン・ワールド
ダンジョンだけではなく地上を含めた全体を管理するシステム。上手くいけば多くのライフ・フォトンを継続的に採集できるが、初期投資が莫大で小規模なところでは導入は難しい。
ジオポーン
ジオ・コンストラクション・キットで作ることができる惑星の総称。異次元に特別な空間を作り、そこ惑星を創造する(こうしてできた惑星の存在する空間を泡宇宙という)。ジオポーンは作り手の趣味趣向目的によって様々なものがあり、人気のファンタジーからSF、旧人類(21世紀現在のもの)などもできる。
ニュートリノックス
ジオポーンを満たす極小マシン。ニュートリノ並の小ささのマシンという意味だが、実際にはそこまで小さくはない。ひとつひとつは機能を持たないが、それがある程度集まることで世界に様々な影響を与える。魔法や魔物などもひとえにニュートリノックスのおかげである。
ジオ・コンストラクション・キット
ライフ・フォトン採集のため惑星を創造する基本的なセット。機能を網羅したフルパッケージやオールインワンパッケージもある。
疑脳人類(ブレインズ)
進化した人類か宇宙でよりよく生きるためにとった姿。基本的に脳だけて活動しており、全体を管理するリヴァイア・システム(レビア)の基で生きている。ブレインズが活動するのはバーチャル空間だが、肉体を実体化させたり、ロボットを使ったりして物理的な活動もできる。バーチャル空間では頭髪のなく全身をタイツのような服を纏っている。
NPC(ノーマル・パーソン・シチズンズ)
ジオ・コンストラクション・キットで誕生する生物の総称。特にライフ・フォトンの採集量の多い人類を呼ぶことが多い。
キリサマ・ブレード
トミオが設定した伝説の刀。能力がプラス修正され、掲げると閃光を放つ。能力的にはそれたけだがリクーは上手く操ってみせた。元ネタはウィザードリィのムラマサ・ブレード。アップルⅡ版が誤植でムラサマ・ブレードになっていたことに因む。
ブレン・ブラウ
アルニスが父より受け継いだ剣。三本の短い剣が回転して敵を粉砕する。正式な名称はブレンダー・ブラウン。元ネタはブレード・カシナート。カシナートは元々クイジナート製のフードプロセッサーで形もそれに準じたジョーク・アイテムだった。ブレンダー・ブラウンは俺が実際に使っているブラウン製ブレンダーから。

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ダンジョン&マスター

キリサマ・ブレードの伝説
東方の小さな国で作られた刀。刀匠キリサマは七人の弟子とともに王へ献上する刀を打っていた。だが気性が難しく、気に入った仕事しかしない、作ったものが良くないと破棄する、など、キリサマの刀は名刀に相応しく手に入れるのは難しいものだった。
王の命でキリサマは一振りの最高の刀を作り、弟子たちもそれに合わせた七本の刀を作った。それは師匠と弟子の絆の賜物でもあった。王は最高の剣を自分に、弟子たちの七本の刀をそれぞれ有力な貴族に渡すことにした。
しかし下級貴族のひとりが献上されるはずだった刀を気に入り、賊を雇って盗ませようとする。しかしキリサマと鉢合わせし、乱闘の末にキリサマを殺してしまう。
貴族はその事実を揉み消し、弟子たちは絶望して献上するはずだった七本の刀に自らの命で呪いをかけた。貴族は狂ったように人切りに走って自害させられ、刀を手に入れた者も軒並み気が触れて凶行を行った。
王は呪いを恐れて王の刀を地下深くに封印し、弟子たちの七本の刀はそれぞれ別の大陸へと送った。それらはその地の領主たちによって厳重に封印されていたが、そのうちの一本がダーケンに手に渡り、彼は呪いの力を使って王となった。王の居城は紫煉城と呼ばれ、人間たちの恐怖の象徴となった。
人間たちは協力して紫煉城を地下深くに封印する。こうして何とか大陸を席巻していたダーケンを一掃し、大陸の覇権を取り戻した。
※このストーリーはトミオかオプションでつけた設定である。実際には東方の小国そのものが存在しない。劇中では呪いで闇に閉ざされた幻の島国と呼ばれている。

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ダンジョン&マスター

リクー(戦士、男、主人公)
フィルニア(僧侶、女、主人公の幼馴染み)
アルニス(騎士、男、主人公のライバル)
サニ(魔法使い、女)
リッジ(盗賊、女)
リクーたち5人のパーティは、伝説の剣『キリサマ・ブレード』を求めて、古いダーケンの地下遺跡『狂皇の紫煉城』、王座の間へと向かう。だがそこは恐ろしい魔物たちの住処でもあった。四度目の挑戦も地底城の庭園で怪物に強襲され、命からがら脱出する。力不足を感じつつも、再度の挑戦を考えるリクーに、サニとリッジはパーティから抜けると言い出す。南西の港町に集結したダーケンとの戦いに備え、高い報酬で腕に覚えのある者たちが集められていたのである。
重要な二人が抜けた後もリクーはダンジョンへの執着をやめない。そこに新しいパーティが現れ、リクーたちはそれに同行することにする。だが彼らは復活する宝を狙って浅い階層を回るだけの盗掘者だった。
意見が衝突しリクーたちはダンジョンの途中で取り残されてしまう。ボロボロになりながらも先に進むリクーたち。リクーには譲れない想いがあった。
リクーとアルニスの父は親友であり同じパーティでダンジョンに潜っていた。だがこの紫煉城の最下層でダーケンの王と対決し、帰還したのはアルニスの父だけだった。アルニスの父は英雄となったが、フィルニアは自分の母親がアルニスの父を罵っているのを覚えていて疑惑を持っていた。
リクーたちは今まで到達出来なかった下層まで到達する。目的の王座の間までもう少し。そこに襲ってきたのは最強の魔物だった。徐々に追い詰められ死も覚悟スルリクーたちを救いに現れたのは、パーティを抜けたサニとリッジだった。協力して魔物を倒し、ついに王座の間に到着する。
そこにあったのは丁寧に葬られているリクーの父、それを見守るように王座に座るダーケンの王の遺体だった。呆然とするリクーたちの前に父親たちの生前の様子が現れる。ダーケンの王との激闘、仲間の裏切り、王の臣下の魔法により崩壊する王座の間。リクーは混乱の最中、アルニスの父に宝を持たせ、無理やり帰還させる。アルニスの父は子供のためにどうしても生きて帰られなければならなかったのである。最後まで残ったリクーとダーケンの王は死闘を繰り広げ、壮絶な相討ちとなり映像は終わった。
真実を知ったリクーたちは和解し、宝を手に入れる。そして移動の魔法で南西の港町に向かい、侵攻するダーケンの軍団との戦いに参戦する。伝説の剣を振るうリクーたちを見て他の者は奮い立ち、英雄の登場を予感する。
※固有名詞は仮称である。まだまだ細かなところは詰めていない。
※このストーリーを見ているは主人公のトミオである。彼が神視点で語ることになる。基本的にゲーム的な視点となる。

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ダンジョン&マスター

作品名『ダンジョン&マスター(仮)』
※正式名称は『ザ・ダンジョン・アンド・ザ・マスターズ』、これは指輪物語(ザ・ロード・オブ・ザ・リングス)やザ・ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズが映画化された際、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ダンジョン・アンド・ドラゴン』と省略されたことへのパロディーである。
※タイトルはまだ仮称である。『ダンジョン&メイカー』、『ダンジョン&ビルダー』などの候補もある。

ジャンル:SF、ファンタジー

ストーリー案
 遥かな未来、人類は進化の果てに理想郷を手に入れた。そこでは人々は何不自由なく暮らしていたが、一部の人間は、この世界でのエネルギー源である『ライフ・フォトン』を採取するため、惑星を作り、そこに新しい人類を創造して、彼らから生命エネルギーを採集していた。
 主人公はそんな『マスター』と呼ばれる青年(ただし年齢は不詳)。ヘルパーという見習いの少年とともに、惑星を大陸毎に分割管理し、そこに迷宮を設置して運営していた。
 だが時代の変化とともに主人公の迷宮運営は行き詰まりをみせる。迷宮に並々ならないこだわりを持つ冒険者がいる一方で、惑星全体で人間の活動が停滞し、ライフ・フォトンの採集量が落ちていたのだ。
 惑星のマスターたちの会議で運営からの撤退も協議される中、主人公は友人の惑星で新しい仕様の管理状況を見て、自分が限界にいると感じる。
 師匠にあたる人物の失踪、成功を収めていたかにみえた友人の失敗などを目の当たりにし、主人公は最後に惑星をリセットしようとする。
 しかし、彼の迷宮に固執する冒険者が、迷宮の最深部で死んだ父の真相と親友との確執を乗り越えて宝を手に入れる姿を目にし、もう少し続けてみようと決心する。

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執筆の覚書、プロット作成、校正

 ブログが余り使われていないので、これからしばらく、執筆用の覚書やプロット、執筆途中のテキストの校正などをこのブログで行うことにした。
 スマホなどで空き時間に簡単に閲覧できる方法を探していたので、実験的に使ってみようということである。盗用、盗作などの危険もあるが、まさか、俺の作る小説を盗もうなんて奴もいるまい。ここは僻地中の僻地だしな。
 まあ、問題が起きるようなら、その時にまた対応を考えよう。

 というわけで、これからしばらく、ネタバレ全開の意味不明な文章がアップされていくと思うので、スルーのほどよろしくお願いします。

 チシャ猫によろしく。

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プロフィールの変更と統一

 色々と使い勝手の問題から、ホームページやブログなどで使っていた『Kai』と『六畳一間』を統一し、プロフィールをまとめることにした。
 実際のところ、Kaiは昔からゲームで使っていたスコアネームだし、六畳一間は最初は官能小説用のペンネームだった。それを作品毎に名前を使い分けようと思ったは、作者のプロフィールが与える作品への印象が少なくないと思ったからだ。
 特にネットで作品を発表する以上、読者との距離はかなり近い。そのため、プロフィールやブログなどの印象がフィルターとなってしまう。
 例えば同じファンタジーでも、彼女いない歴イコール年齢の若い童貞が書くのと、彼女有りのリア充20代が書くのでは、残念ながら作品そのもののイメージも変わってしまう。
 ということで使い分けていたペンネームだが、実際、執筆が停滞してほとんど書けなかったこともあり、これからは統一して“同一人物”として使うことにした。ただし、あくまで公式プロフィールということで、実在の人物とは必ずしも同じではない、というのは断っておく。
 ペンネームとプロフィールは作品に対するフィルターである。

作者、著作権者
Kai、六畳一間
年齢
1968年生まれ、47歳、童貞
出身、居住地
徳島県徳島市
趣味
創作、ゲーム全般、アニメ、映画、アダルト観賞

 これがこれからの俺の公式なプロフィールだ。

 チシャ猫によろしく。

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